CONTE

 

 そこは、真っ白の部屋にドアが一つだけ付いている不思議な場所だった。

 その不思議な場所に、全身真っ白な男が独り、立っていた。

 

「あれ?お前、久し振りだね。最近、見かけなかったから心配してたんだよ」

 雅昭はそこにいる男が親友の大輔だと気付くと、嬉しそうに声を掛けた。大輔も雅昭の存在に気が付くと

、満面の笑みを浮かべた。

「本当に久しぶりだなー!元気にしてた?」

「どちらかと言うと、元気だな。最近、彼女ができてさー。めちゃくちゃかわいくて困ってるんだよねー」

 雅昭が自分の手を腰に当て、勝ち誇った顔で大輔を見た。大輔は雅昭の顔を見ながら、鼻で笑った。

「本当にかわいいのかよ?有名人で例えたら誰に似てる?」

 雅昭は腕を組みながら、顔に皺を寄せながら考え始めた。

「そうだなー。小野小町に似てるかな」

「いやいや、小野小町って言われても全くイメージ湧かないから。確かに有名人だけどさー」

 大輔の指摘に、雅昭は恥ずかしそうに苦笑いをした。

「ごめんごめん、間違えた。小野妹子の方だった」

「……もう、なんかどうでもいいや。しかも、小野妹子って男だし」

「そんなことより、お前今までどこに行ってたんだよ?」

 雅昭は少し声を張って、大輔に訊ねた。

「どこって、ここで普通に生活してたよ。何にもない所だけど、……住めば都だよ」

 大輔は少し照れたような顔で言って、冷たい視線を向ける雅昭に背を向けた。

 雅昭は自分のいる場所の周りを見渡し、雅昭の誇らしげな背中を見つめた。

「まあ、都なんてないけどね。それより、おれは何でここにいんの?気がついたら、ここにいたんだけど」

「お前、もうボケてんじゃねえの?健康には気をつけた方がいいよー」

 大輔は振り返って、少し冗談っぽく雅昭の質問に答えた。

 その大輔の態度に、雅昭はムッとして、大輔を指差した。

「そもそも、お前のその全身真っ白な格好は何!?トイレットペーパーみたいなんだけど」

 雅昭は大輔を指差しながら、その真っ白な格好を口を尖らせながら馬鹿にした。

「それを言うなら、お前だって!黒いスーツなんか着て、黒いスーツなんか着て……」

「何にも例えが思い浮かばなかったんだね。お互い、なんでこんな格好してんだろうなー」

 すると、雅昭は急にズボンのポケットの中を探り始め、携帯電話を取り出した。

「おれ天才!携帯で自分のいる場所を調べれるんだった。て、圏外かよ!」

「お前、その携帯どこの会社のやつだよ?全然使えないでやんの」

 大輔は呆れて、その場に座り込んだ。

「この携帯はおれの手作り。木で作ったんだぞ」

「じゃあ無理だわ!その携帯は常に圏外の状態を保ち続けるよ!」

「んっ?携帯以外にも何かポケットに入ってる。何を入れたっけなー」

「記憶力の悪いドラえもんみたいだな。で、何が入ってたの?」

 雅昭はポケットから出てきた物を注意深く見た。大輔も座りながら、雅昭の様子を窺った。

「なんかの紙。あー、葬儀通知の紙だ。だから、おれこんな格好してんだ」

「なるほどねー。ところで、一体誰の葬儀よ?」

 雅昭は葬儀通知の紙を一通り見終わり、口を開いた。

「んーと、お前!」

「そうですそうです。僕死んじゃったんです。て、そんなボケいらないから!」

 大輔は笑いながら、座った態勢から静かにブリッジの態勢に移って、雅昭をじっと睨んだ。

「いや……本当にそう書いてあるんだけど」

「えっ?そんなバカなことあるわけないって!だって、生きてるし!」

 ブリッジの態勢から勢いよく起きあがると、大輔は雅昭からその紙を奪った。

「……お前、もしかして自殺したんじゃないのか?だからそんな格好なんじゃないのか?ちょっとお前もポ

ケットの中調べてみろよ!なんか手がかりがあるかも」

「わかったよ。……なんかぬちゃぬちゃしてる物が入ってる。そら!」

 ポケットから出てきたのは、鮮やかな緑色の海藻だった。

「……ワカメだ。味噌汁でも作ろうとしてたのかな?」

「味噌汁作ろうとしてる人間が、ワカメをポケットに入れるわけがないだろうが。お前、入水自殺したんだ

よ」 

 すると、大輔は頭を激しく揺らし、呆然と立ちつくした。

「そうだ、おれは海で入水自殺をしたんだ。全て思い出したよ。でも、なんでお前はここにいるんだ?」

 雅昭は必死に記憶を思い出そうとした。

「わからない。おれには死んだ記憶なんてないし。この紙以外は何も……!?時計の針が4時44分44秒

で止まってる」

「ベタだなー」

「そうだ、おれはお前の葬儀に向かう途中で車に轢かれたんだ。どうやら、おれもその時に死んだらしいな」

 雅昭は喋ることを止め、その場に呆然と立ちつくした。

「てことは、ここは天ご……」

 

 ドンドン!ドンドン!

 ドアが力強く叩かれ、メガネを掛けた女の人がドアを開け、焦った様子で入ってきた。

「すいませーん。デュルケームのお二人さん、そろそろ出番なんで、スタンバイお願いしまーす。」

「もうそんな時間っすか?わかりました、よろしくお願いしまーす!」

 雅昭は愛想よく女の人に挨拶をすると、女の人は部屋から急いで出ていった。

「なあ、本当にこのコント面白いかな?」

 大輔は不安そうに、雅昭に話しかけた。

「面白いって!命を賭けてもいいよ!……やっぱり、命を賭けるのはやめとく」

「なんで?自信がないの?」

 大輔の質問に、雅昭は気持ち悪いくらいの爽やかな笑顔を向けた。

「おれが死んだら、お前も死ぬからだよ」

「それはコントの中の話だろうが!」

 大輔は、ドアに近づく雅昭の後ろから大声を出して、雅昭の肩を掴んだ。

「ははは!死ぬのは怖いからかんべんかんべん!さあ、行くぞ!」

 ちょうど二人が部屋のドアを出る時に、雅昭の腕時計のアラームが鳴り、午後7時の時を告げた。